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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和42年(ワ)284号 判決

原告

原田繁広

被告

双葉建設株式会社

ほか一名

主文

一  被告双葉建設株式会社は原告に対し、金三三七万二三〇四円と、内金三〇七万二三〇四円に対する昭和四二年七月二八日から、内金三〇万円に対する昭和五三年二月二二日から各支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告双葉建設株式会社に対するその余の請求および被告北村富男に対する請求はこれを棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告双葉建設株式会社との間においては、原告に生じた費用の四分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告北村富男との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金九六七万〇五六〇円と、これに対する昭和四二年七月二八日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告両名の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は、次の交通事故(以下、本件事故という。)により傷害を受けた。

(一) 発生日時 昭和四一年四月一八日午前八時頃

(二) 発生場所 尼崎市大庄川田町七番地先路上(以下、本件道路という。)

(三) 加害者 普通乗用自動車(神戸二に一三五、以下本件加害車という。)

右運転者 石原昌希

(四) 事故態様 原告が、自転車に乗つて本件道路を東進中、東から対向して進行してきた石原昌希運転の本件加害車と接触して、転倒した。

(五) 傷害の部位、程度等

原告は、頭部外傷(脳内出血)、左耳部、左肩胛部、頸部各挫傷、および頸椎脊髄症の傷害を負い、昭和四一年四月一八日から同四二年二月一五日まで三〇四日間医療法人青木診療所に入院して治療を受け、退院後も同四三年一二月二五日まで通院して治療を受けるも、その効なく、現在まで自宅で医師の指示通り頸椎牽引療法を受けているが、牽引後数時間を経過すると頭痛等がして、手足の自由がきかなくなり、そのため一日に数回も牽引しなければならず、労働も不可能の状態となつている。

2  責任原因

(一) 被告双葉建設株式会社(以下、単に被告会社という。)

被告会社は、事故当時石原昌希を使用し、同人に業務の執行として本件加害車を運転させ、これを自己のため運行の用に供していたのであるから、自賠法三条により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(二) 被告北村富男

被告北村富男は、被告会社の代表取締役であつて、被告会社に代つてその被用者の監督をなしているものであるところ、本件加害車の運転者である石原昌希には被告会社の業務執行中に前方不注視等の過失があつたのであるから、民法七一五条二項により、被告会社の被用者である右石原が起した本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 療養費

原告は、青木診療所における昭和四一年一一月一一日から退院日までの療養費九万七〇〇〇円を負担した。

(二) 逸失利益

(1) 原告は、当時能祖建設株式会社に勤務し、月平均四万二四〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故による入・通院のため、昭和四一年四月一八日から同四二年四月末日まで一二カ月間欠勤を余儀なくされ、そのため五〇万八八〇〇円の損害を蒙つた。

(2) 原告は、前記収入を得ていたところ、本件事故により、稼働可能期間を通じて、全労働能力を喪失した。原告は昭和四二年五月当時四三歳で、以後一七年間は稼働可能であるから、右期間の得べかりし利益をホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除してその現価を求めると、六二四万九七六〇円となる。

(三) 慰藉料

原告は、本件事故による受傷のため前記のとおり入・通院し、かつ後遺障害による肉体的精神的苦痛を受けてきており、その慰藉料としては五〇〇万円が相当であるが、そのうち二〇〇万円を請求する。

(四) 損害の填補

原告は、被告会社より治療費等として一〇二万二〇九〇円と、仮処分決定などにより三六万円の支払を受けたが、右三六万円は入院雑費、治療費未払分五五万六六三六円に充当した。

(五) 弁護士費用

原告は、被告らに対し、前記(一)ないし(三)の合計金額から(三)の金額を控除した金額の損害賠償債権を有するところ、被告らから任意の支払を受けられないので、右債権取立のため本訴の追行を本件原告訴訟代理人に委任し、その手数料(着手金)として二〇万円、謝金として判決認容額の一〇パーセントを支払う旨約した。右額は一〇〇万円を下らないので、右のうち一〇〇万円を請求する。

4  結論

よつて、原告は被告らに対し、各自九六七万〇五六〇円と、これに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四二年七月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告両名の認否

1  請求原因1の事実のうち、(一)ないし(四)の事実は認める。同(五)の事実のうち、脳内出血を除くその余の傷害を受けたこと、三〇四日間入院したことは認めるが、その余の事実は否認する。

頸椎脊髄症は本件事故と因果関係がなく、その程度もごく軽度のものであるし、入院の必要もなかつた。

2  同2の(一)の事実のうち、被告会社が石原昌希を使用し、同人に業務の執行として本件加害車を運転させ、これを自己のため運行の用に供していたことは認める。

同(二)の事実のうち、被告北村富男が被告会社の代表取締役であることは認めるが、その余の事実は否認する。同被告は被告会社に代つてその被用者の選任、監督をしているものではない。

3  同3の事実のうち、被告会社が原告に対し本件事故に基づく損害金として一〇二万二〇九〇円と三六万円を支払つたことは認めるが、その余の事実は否認する。

三  抗弁

1  免責の抗弁

石原昌希は、本件加害車を運転して本件道路を時速約二〇キロメートルで西進中、進路前方に窪みがあつたので、一旦反対車線に進入してこの窪みを避けたうえ、再び自己の車線に戻ろうとしたところ、原告が前方から自転車に乗つて下を向いたまま反対車線から道路中央付近に飛び出してきたので、危険を感じて、急制動の措置を講ずるとともにハンドルを左に切つて停車した。しかるに、原告は適切な回避措置を何ら講ずることなく、そのまま本件加害車に突つ込んできたものである。

本件事故の状況は右のとおりであつて、石原昌希には運転上の過失はなく、事故の発生はひとえに原告の右のような前方不注視等の一方的過失によるものである。また、被告会社には運行供用者としての過失はなかつたし、本件加害車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告会社は自賠法三条但書により免責される。

2  過失相殺

仮に石原昌希に過失があるとしても、原告にも前記のような過失があつたのであるから、過失相殺さるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1、2の事実は否認する。本件事故はひとえに石原昌希の前方不注視、運転未熟等の過失に基因するものである。すなわち、右石原は前方の安全確認もせずに反対車線に進入して進行し、原告が道路端で停車して後方の車両の安全を確認すべく振り返つたところへ、衝突したものである。したがつて、原告には何らの過失もない。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

1  請求原因1の事実のうち、(一)ないし(四)の事実については、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告の傷害の部位、程度等について検討する。

原告が、頭部外傷、左耳部、左肩胛部、頸部各挫傷、および頸椎脊髄症の傷害を受けたことについては、当事者間に争いがない。原告は、その他に脳内出血の傷害も受けた旨主張するが、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したと認める甲第二号証および成立に争いのない乙第五号証のうち、これに符合する部分は鑑定人河原崎篤の鑑定の結果に照らして措信できず、他にこれを認むべき証拠はない。

被告らは、原告の頸椎脊髄症は本件事故と因果関係がない旨主張するので、判断するに、鑑定人河原崎篤の鑑定の結果および原告本人尋問の結果によると、原告は本件事故後頸椎脊髄症にかかつたこと、しかし、原告には本件事故以前から同症の準備状態があつたこと、本件事故がその発症をさらに加速したこと、したがつて、本件事故のみが同症の原因とは考えられないことが明らかである。右の事実関係からすれば、本件事故が、原告の頸椎脊髄症の原因となつていることは明らかであるが、他方本件事故前から原告の体内に潜在していたその準備状態もその一因をなしていることも否定できない。このように傷害が事故のみによつて発生したものではなく、被害者に事故前から潜在していたその準備状態等の要因と相俟つて発生したような場合には、その傷害に基づく損害をすべてその事故によるものであるとすることはできないのであつて、事故がその傷害の発生に寄与している限度においてのみ相当因果関係があるものとして、その限度で加害者に損害賠償の義務を負わせるのが、相当であるというべきである。本件においてこれをみるに、前記証拠によると、原告の頸椎脊髄症の原因としては、本件事故の方が、それ以前から原告に存していたその準備状態よりもやや優る関係にあることが認められるから、原告の同症に基づく損害については、本件事故がその発生に六割程度寄与しているものとして、同損害の六割の限度で賠償請求を認めるのが相当である。

また、被告らは、原告の前記症状はごく軽度のものであり、入院の必要もなかつた旨主張するので、検討するに、原告が昭和四一年四月一八日より同四二年二月一五日まで三〇四日間青木診療所に入院して治療を受けたことは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したと認める甲第二号証、成立に争いのない乙第五号証の一、鑑定人河原崎篤の鑑定の結果および原告本人尋問の結果によると、原告は前記症状のため、右期間中入院の必要があつたことが認められ、成立に争いのない乙第二号証の八のうち、右認定に反する部分は右各証拠に照らして信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、右各証拠および弁論の全趣旨によると、原告は退院後も昭和四三年一二月二五日まで通院して治療を受けたが、その効果がなく、その後現在まで自宅で医師の指示通り頸椎牽引療法を続けているが、牽引直後は頭もすつきりするけれども、足や腰が重く、また牽引後数時間を経過すると頭や首のうしろも痛くて耐えられなくなり、そのため一日に三ないし七回(一回につき約一時間)牽引しなければならず、稼動することもほとんど不可能の状態となつているが、右症状は日時の経過とともに自然に治癒することはあり得ず、手術的に加療してもなお多くの症状を残すことも考えられ、軽労働に従事する可能性も少ないことが認められ、成立に争いのない乙第二号証の五のうち、右認定に反する部分は前記各証拠に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  次に、本件事故発生の状況および過失関係について判断する。

成立に争いのない甲第一、第七、第八号証、乙第二号証の一ないし四、九ないし一一、証人石原昌希の証言および原告本人尋問の結果(以上のうち、いづれも後記信用しない部分を除く。)ならびに弁論の全趣旨を総合すると、

1  本件事故現場は、東西に通ずる幅員約九・六メートルの道路で、当時は工事中であつたため、道路の南側部分は未舗装であつたが、見通しは良好な場所であること、

2  石原昌希は、本件加害車を運転して、時速約四〇キロメートルで西進中、進路前方に三箇の窪みを発見したので、これを避けるために、ハンドルを右に切つて対向車線に進入した際、約三六メートル前方に自転車に乗つて東進している原告を発見したが、同人が接近してくる前に、自車が右窪みを避けて対向車線から自己の車線に戻れるものと軽信するとともに、右窪みに気をとられ、前方注視を欠いたまま慢然と同一速度で対向車線を進行したところ、自己車線に戻る前に、右自転車との距離が約一三メートルに接近して初めて危険を感じ、急制動の措置を講ずるとともにハンドルを左に切つたが、間に合わず、道路中央付近で自車右前部を原告の自転車に接触させたこと、

3  他方、原告は、自転車に乗つて東進中、前方注視を怠つたため、自己の進路前方に本件加害車が進入して進行してくるのをごく近接して初めて発見し、危険を感じて、これを避けるために、とつさに右側の反対車線に進路をかえたために、同じく危険を感じて左にハンドルを切つた石原の本件加害車に左ハンドルが接触し、転倒したこと、その際、原告の進路左側には、本件加害車を避けうる避難場所はあつたこと、

以上の事実が認められ、成立に争いのない甲第八号証、乙第二号証の三、四、九ないし一一、証人石原昌希の証言および原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は前記各証拠に照らして信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると、石原昌希は、対向車線に進入した際、同車線を対向して進行してくる自転車を発見したのであるから、このような場合、直ちに減速するとともに右自転車の動静を十分注視し、危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、窪みに気をとられ、前方注視を欠いたまま同一速度で進行した点に重大な過失があつたというべきであるが、原告にも、前方注視を怠るとともに自己の進路前方に本件加害車が進行してくるのを発見した際、左側に避難しうる場所があつたにもかかわらず、とつさに右に進路をかえて道路中央付近に進行した点に過失があつたというべく、結局本件事故は、右両名の過失によつて生じたものといわざるを得ない。そして、その過失割合は石原昌希七に対し原告三とみるのを相当とする。

三  次に、責任原因について判断する。

1  被告会社

被告会社が本件事故当時石原昌希を使用し、同人にその業務の執行として本件加害車を運転させ、これを自己のため運行の用に供していたことについては、原告と被告会社との間に争いがない。そして、前記認定のように、右石原に運転上の過失があつた以上、その余について判断するまでもなく、免責の抗弁は理由がない、従つて、被告会社は自賠法三条により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

2  被告北村富男

同被告が被告会社の代表取締役であることについては、原告と同被告との間に争いがないが、民法七一五条二項にいう「使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者」とは、客観的に見て、使用者に代り現実に事業を監督する地位にある者を指称するものと解すべきであり、使用者が法人である場合において、その代表者が現実に被用者の選任、監督を担当しているときは、右代表者は同条項にいう代理監督者に該当し、当該被用者が事業の執行につきなした行為について代理監督者として責任を負わなければならないが、代表者が単に法人の代表機関として一般的業務執行権限を有することから、ただちに、同条項を適用してその個人責任を問うことはできないものと解するのを相当とする(最高裁判所昭和三九年(オ)第三六八号、同四二年五月三〇日第三小法廷判決、民集二一巻四号九六一頁参照)。

したがつて、被告北村富男をもつて同条項にいう代理監督者であるとするためには、同被告が石原昌希の使用者たる被告会社の代表取締役であつたというだけでは足りず、同被告が現実に右被用者の選任または監督をなす地位にあつた事実を、その責任を問う原告において主張立証しなければならない。ところが、右具体的事実については、これを認むべき証拠はない。従つて、被告北村富男に代理監督者責任を帰せしめることはできない。

四  損害

1  療養費

原告本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したと認める甲第三号証によると、原告は青木診療所における昭和四一年一一月一一日から同四二年二月一五日までの療養費として九万七〇〇〇円を負担したことが認められる。そして、前記寄与度からして、右のうち六割(五万八二〇〇円)が本件事故と相当因果関係のある損害といえる。

2  逸失利益

原告本人尋問の結果によつて真正に成立したと認める甲第四号証の一ないし三、証人原田かおるの証言および原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故当時能祖建設株式会社に勤務し、月平均四万二四〇〇円の収入を得ていたこと、本件事故による入・通院のため昭和四一年四月一八日から同四二年四月末日まで一二カ月間欠勤を余儀なくされたことが認められ、従つて、この間の損害は五〇万八八〇〇円となる。そして右のうち六割(三〇万五二八〇円)が本件事故と相当因果関係のある損害といえる。

また、前記証拠によると、原告は昭和四二年五月当時、四三歳で、厚生省発表の生命表を考慮すると、以後一七年間は稼働可能であるところ、前記認定のように原告は稼働可能期間を通じて労働能力を一〇〇パーセント喪失したから、前記収入を基準としてその間の逸失利益をホフマン式計算法により民法所定の年五分の割合による中間利息を控除してその現価を計算すると、以下のとおり六一四万四七七七円(円未満切捨、以下同じ)となり、原告は同額の損害を蒙つたこととなる。

42,400円×12カ月×12.077=6,144,777円

そして、右のうち六割(三六八万六八六六円)が本件事故と相当因果関係のある損害といえる。

3  過失相殺

本件においては、原告にも事故発生の原因となる過失があること前記認定のとおりであり、右過失を斟酌して原告の損害額(前記1、2の合計四〇五万〇三四六円)の三割を過失相殺すべきであるから、過失相殺後の原告の損害額は二八三万五二四二円となる。

4  慰藉料

原告が本件事故により前記の各傷害を受け、前記のとおり長期間の入・通院を余儀なくされたうえ、いまだに前記の後遺症を残しており、復職するに至つていないこと、しかし、前記傷害のうち、頸椎脊髄症は本件事故と六割程度しか因果関係がないこと、原告には、本件事故発生につき前記のような過失があることはいずれも認定したとおりであり、以上の各事実に本件事故態様その他諸般の事情を総合勘案すると、原告の本件事故による精神的苦痛に対する慰藉料としては、一五〇万円が相当というべきである。

5  損害の填補

原告が被告会社から本件事故に基づく損害金として一〇二万二〇九〇円および仮処分決定などにより三六万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないところ、原告は右三六万円は入院雑費等に充当した旨主張するので、検討するに、原告が青木診療所に三〇四日間入院したことは前記認定のとおりであり、弁論の全趣旨によると、原告が右入院した三〇四日間、入院雑費として一日一五〇円宛合計四万五六〇〇円程度支出したことが推認されるが、右のうち六割(二万七三六〇円)が本件事故と相当因果関係のある損害といえ、そのうち七割(一万九一五二円)が被告会社において賠償すべき額となる。原告は右入院雑費を本訴において請求していないから、被告会社より支払をうけた金員をもつてこれに充当すべきである。そうすると原告がその損害の填補を受けた額は、前記被告会社より支払を受けた額より右入院雑費に充当した分および成立に争いのない乙第四号証の一ないし三によつて認められる仮処分決定により仮払を受けた分一〇万円を控除した一二六万二九三八円となる。したがつて、原告の前記損害総額から右の填補分を控除すると、残額は三〇七万二三〇四円となる。

6  弁護士費用

被告会社が以上の損害賠償額について任意の弁済に応じないので、原告が弁護士である本件原告訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認める甲第五号証によると、原告は、同訴訟代理人に着手金として二〇万円、謝礼金として判決認容額の一〇〇分の一〇を支払う旨約したことが認められる。本訴訟の審理経過、事件の難易度、前記の請求認容額等に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある損害は三〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上のとおり、被告会社は原告に対し、本件事故による損害賠償として三三七万二三〇四円およびうち弁護士費用を除く三〇七万二三〇四円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四二年七月二八日から、うち弁護士費用三〇万円に対する本判決言渡の日の翌日である同五三年二月二二日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があること明らかである。

よつて、原告の本訴請求は、被告会社に対して右の限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求および被告北村富男に対する請求はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横山敏夫)

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